歯科の事故防げ ヒヤリ事例集約、解決策公開へ

歯科医療現場での医療事故や院内感染を防ぐ取り組みが広がってきた。事故を防ぐ安全対策を第三者が評価したり、トラブル事例をデータベース(DB)にして再発防止策を共有したり。歯科は小規模な医院が多く、大病院に比べ医療安全は遅れているとされ、関係者は「全体の底上げを図りたい」と話す。

広島歯科医療安全支援機構の設立総会(2013年5月、広島市)
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広島歯科医療安全支援機構の設立総会(2013年5月、広島市)

 昨年5月、広島大学病院や広島県歯科医師会らが中心になり、「広島歯科医療安全支援機構」を設立した。大病院と県内の小規模の歯科医院などが連携し、地域医療の安全対策につなげるのが狙いという。

■チェックシートで

  現在、県内1500歯科医院のうち約100医院が参加。機構からは医療事故や院内感染の対策を各医院が点検できるよう、チェックシートを定期的に提供す る。歯科医院側は、歯科衛生士らスタッフに対する教育や医療器具の滅菌状況などの情報を機構側に伝え、機構が結果を評価して改善策を助言する。

  情報をデータベース化することで、各歯科医院が自らの取り組みの“レベル”を客観的に知ることもできる。15年度からは、実際に起きたトラブルや、事故に つながりかねないヒヤリ・ハット事例も集約し、データベースに加える方針。最初は広島大学病院で起きたヒヤリ・ハット事例と解決策を公開する予定だ。

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  今後は機構独自の実習や試験を歯科医や歯科衛生士、歯科技工士に課し、安全管理の資格を認定する制度もスタートさせる考え。同機構の機構長を務める栗原英 見・広島大教授は「まずはできるだけ多くの歯科医院に参加してもらい、全体の医療安全の底上げと標準化を図りたい。同様の取り組みが全国に広がってほし い」と話す。

 歯科治療で命に関わったり、重い後遺症が残ったりする事故は少なくない。院内感染のリスクもあり、器具に血液が付着し、滅菌などが不十分だと、別の患者にウイルスが感染する可能性もある。

■医療事故調始動へ

 医療事故をめぐっては来秋、患者が予期せずに死亡した事故が起きた場合、原因を分析して再発防止に役立てる「医療事故調査制度」が動き出す。

 歯科医院や助産所なども含む全国計約18万カ所の医療機関が対象で、第三者機関「医療事故調査・支援センター」に届け出るとともに、外部の専門家の支援を得て調査を行う。歯科治療の現場で安全への取り組みが進み始めた背景には、こうした医療界の動きもあるようだ。

 歯科医院に対する独自の資格認定制度を始めている第三者機関もある。05年に発足したNPO法人「歯科医療情報推進機構」(東京・文京)は、専門家でつくる審査委員会が実際に歯科医院に足を運び、安全確保に関する計約200項目を評価。基準を満たした施設を認定している。今年10月現在、全国73施設が認定された。

  国内で病院評価を手がける第三者機関は、1995年に国や日本医師会などが設立した「日本医療機能評価機構」があり、10月現在で2千を超える病院が認定 されている。歯科医療情報推進機構の松本満茂専務理事は「歯科診療所も、安全対策などに関して客観的で適切な情報を提供していきたい」という。

 日本歯科医師会も、2年に1度、医療安全研修会を開催、感染症予防のための講習会を年複数回全国で実施するなど、取り組みを強化している。

◇            ◇

■トラブル相談 増加傾向 インプラント 目立つ

  国民生活センターによると、歯科治療に関するトラブル相談件数は2013年度で約3千件。年々増加傾向にある。顎の骨に人工歯根を埋め込むインプラントに 限ると、11年度までの約5年間に健康被害の相談件数が計343件寄せられた。痛みやしびれが残る、化膿(かのう)した、などの訴えが目立つ。

 日本歯科医学会が12年に実施した調査では、インプラントを実施する歯科医の4人に1人が、患者に神経まひなど重い症状が起きた経験があった。

 死亡事故につながることもある。07年には都内の歯科医院でインプラント手術を受けた女性(当時70)が死亡。顎の骨をドリルで削る際、動脈が傷つき大量出血したのが原因だった。

 日本歯科医学会はインプラント治療や歯科診療時の院内感染を防止するためのガイドラインを作成。ホームページ上で公表するなどしている。

(平野慎太郎)  [日本経済新聞夕刊2014年11月6日付]

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