母は恋人 ━ある痴呆性老人の素顔━

2012年4月13日のブログに、認知症について書きました。
我が家も、祖母の「お金がない、盗られた・・」に始まる、
認知症介護の大変さを味わいました。
認知症の現れ方は人それぞれですが、
何かその人の内にあるものが表現されるのでしょう。

この認知症の問題について考える時、開いてほしい本があります。
『フォト・ドキュメント 母は恋人 ━ある痴呆性老人の素顔━』 
写真・文 木村松夫  雲母書房(きらら書房)  1989年 2,300円

母は恋人

穏やかな環境が穏やかな表情を引き出すのでしょうね

フォト・ジャーナリストの木村さんのお母さんは、50歳代で認知症になられた。
そのお母さんとの10数年に渡る関わりから、そのときどきのお母さんの様子を写している。
また、自分自身や家族の在り方、施設や病院、行政の対応を冷静に見つめ、
認知症問題と言われることの深層にメスを入れる文章も合わせて掲載されています。

高齢者の環境として、施設など社会の問題を挙げるのは簡単である。
しかし、木村さんは公開したくない、自分自身と家族の問題も書いている。
最初は逃げていた母親の認知症に、向き合わざるえなくなり、
その根本的な原因は、木村さんご一家にメスを入れる辛い仕事になっています。
そこで語られる言葉は、それを受け取る私たちにも突き刺さってくるのです。
人間は、痛みを伴って初めて問題に気付くのでしょう。
そして問題は、この痛みを感じたぶんだけ回復の方向に向かうのかもしれません。

一番悲しく心に残った文章があります。

「母に忘れてしまいたい過去がなかったなら、
母はあのように喋らぬ人になっていただろうか」

私たちが口腔ケアで認知症の患者さんに向き合うとは、
それぞれの人の忘れてしまいたい過去とも向き合っているのかもしれません。
だからこそ、口腔ケアによって、その人の人生をも癒すことができる
可能性を秘めた仕事だとも言えるのではないでしょうか。

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