訪問口腔ケア患者Mさん(8) <呼び方>

Mさんの名前には、<光>と言う字がついている。
「いい名前ですね」というと、
「いいでしょ。私が生まれた瞬間、父に光がワーッて射しこんだんだって」
「へー、すごいわね。光の子か。神の子みたいやね」
「そんないい人生じゃなかったわ。」
「神の子イエスも、辛い人生という感じがするけど・・・」
「そう言われればそうね。
 父は名前の画数とか考えていなかったのよ。見てもらったら、画数が悪いのよ。」
「そうなんだ・・・。でも、Mさんの好きな英語なら気にしなくていいんじゃない?」
「ハハハ、それは、そうかもしれない。」
「お父さんは、霊的な方だったの?」
「そうね、いろいろ見えたみたい。でも、決して人様には申し上げませんよ。」
「へー、・・・」

「○○さん、皆からなんて呼ばれていたん?」
「いろいろね。場所によって、○○さんとかMちゃんとか・・・」
「どれが気に入っているの?」
「別にどれでもいいわ。」
「じゃー、どれが一番自分らしいとおもう?」
「そりゃー、光のMちゃん」
「じゃー、私もそう呼ばして頂いていいかしら。」
「いいですわよ」

かくして私は、Mさんを光の「Mちゃん」と呼ぶようになった。
Mちゃんは、施設の方が私を先生と呼ぶが、
最初から「本田さん」と呼んでくれている。
いい感性だなーと、嬉しくなる。

障害者歯科の本には、高齢者・障害者に対して子供みたいに
○○ちゃんなんて呼んではいけない。きちんと、○○さんと呼ぶべきであると書いている。
大変、倫理的なご意見である。

私も以前、障害者の診療所で働いているとき、注意されたことがある。
そのときは、雰囲気で「きょっちゃん」とか「おばーちゃん」など
何も考えずに呼んでいた。
それは、患者さんを人格として人として大切にしていない態度だと注意された。

そうかなー、日常的に○○ちゃんと呼ばれている方なら、
<もちろん本人がそれを受け入れていることが前提>
○○ちゃんでいいんじゃないかと、違和感を感じたのです。

どうも、猫も杓子も○○さんとか、患者様と呼ぶことが
患者さんを人として大切にしているとは考えられなかった。

どうしよー
そこで、新しい患者さんには「何ってお呼びしましょうか」と尋ねることにした。
ご本人が何も言わないときは、家族や施設の方に、どう呼ばれるのか好きかな?と尋ね
決まったら、
カルテの氏名の横に鉛筆で<○ちゃん>とか<△さん>とメモっていた。
歯科医の先生に患者さんのことを伝える時は、「○○さんは・・・」と言い
患者さんと話すときには「△ちゃん」。

障害者歯科診療は、ほとんどの患者さんが3ヶ月おきに、
何年も何十年もリコールに来る。
長ーいお付き合いが始まるのですから、呼び方は大切だと思います。
呼ばれる方だけでなく、呼ぶ方だって、自然でしっくりくる呼び方をしたい。
訪問口腔ケアはそれ以上に呼び方を大切にしたいと考えている。
だって、週に一回のお付き合いが一生続くのですから。

虹

 

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