歯科衛生士徒然草 第六話

§第六段

「あ~ぁ、こんなはずじゃなかったのに。もう辞めたいよぅ」というセリフ。

就職して1ヶ月ほど経った後輩たちからよく聞かされる言葉である。
そもそも、 彼女たちは何が原因で「こんなはずではなかった」と感じるのだろうか。就職前の面接で給与や就業内容については納得し、社会人となる覚悟もしていたはず。 聞けば、ほとんどの場合が人間関係からくる職場の雰囲気に端を発している。そんな失敗を最小限にとどめるためのアドバイスを紹介したい。

方法は簡単。就職しようとする歯科医院へ患者として訪問してみるのである。あなた自身が行かなくてもいい。口うるさい友人や家族に協力してもらい、皆の 意見を聞いてみればいいのだ。

電話の対応、入り口のスリッパの状態、受付、トイレ、待合室の雰囲気やBGM、患者さんの様子など、何からでもその医院の状 況を読みとることができるはず。治療室でも同様、チェックする事項は山盛り。先生とスタッフの対応、患者さんとの対応など、実をもって体験してみよう。患 者さんとして来院すれば、ドクターの歯科医療に対する考えやスタッフのチームワークなど、面接では見えにくいが働く上でもっとも大切なことが見えてくる。 何より、先輩となる歯科衛生士の人となり、仕事ぶりをしかと見られるチャンスとなる。

言うまでもなく、歯科医院のスタイルは開業件数と同じ数だけ存在する。それは、院長先生の独断のものであったり、スタッフみんなが長年かけて作り上げた ものであったりする。いずれも簡単に変えられるものではない。だからこそ、事前にその歯科医院の状況を察知し、自分がその中に身をおけるかどうかシミュ レーションしておきたい。そうすれば就職後の、「こんなはずではなかった」という後悔も少なくなるはずである。

加えて、「最近の歯科衛生士はどうも辛抱がなく、すぐ辞める」とお嘆きの院長先生。そういう人材ばかりを採用してしまう運の悪い先生もいらっしゃると思うが、貴院の空気はそんな状況を後押しするものではないか、今一度振り返っていただければと思う。

スタッフが生き生きと長く勤務している医院は”空気”がいい。当然、患者さんにとってもすばらしい医院と映っているはずである。