歯科衛生士徒然草 第二十七話

§第二十七段

皆さん、夢見心地で何度でも観ることのできる映画、いくつ思い浮かびます か。私は、オードリー・ヘプバーンの映画はすべてがそうです。それに、ジュリア・ロバーツが主演した「プリティ・ウーマン」、これも現代版シンデレラ物語 で、何度観ても音楽を口ずさみ、ルンルン気分になれる映画です。まだ観ていない読者の方は、私のコラムを読む暇があるのでしたら、さっさとレンタルビデオ 店に行くことをお勧めしたいくらいです。

「プリティ・ウーマン」の中で、リチャード・ギアが、苺の種が歯に詰まってデンタルフロスを使っているジュリア・ロバーツを見てただの娼婦ではないことを見抜いたところなど、DHの私としては感動ものだった。さすが、いい男はお目が高い。

それにしても頭にくるのは、我が家の男ども。私は毎日、いや時には1日に3回もデンタルフロスを使っているのに、私のすばらしさに気づかない。何と見る目がないことか。「バーゲンで買ったセーターが高い」などとくだらない文句をつけている始末である。

そういえば、もう一人女を見る目のない男がいた。一緒に仕事をしている若 くてハンサムな歯科医である。スマートな手つきでフロスを使いこなす私をババア呼ばわりし、何度指導してもフロスを使わぬ金髪のパンチラ娘に手取り足取り 指導するのだ。だからお前はリチャード・ギアになれないのだ、と教えてやりたい。

プリティ・ウーマンの中には、ほかにもおもしろいところがある。友人の娼婦が仕事の心得を教える場面で、絶対にキッスはしてはいけないと忠告するのだ。口は、自分にとって一番大切な男のためにとっておくという教えである。
普通、キッスの方を軽く見るのではないかと思うのだが、これは風俗業界のみの常識なのだろうか。悩むところではあるが、口は人間の心を表すところだと考えれば、単なる肉体より大切にしたいのが理解できる。

交尾をしない哺乳類はいないが、熱い口づけを交わす動物もいない。フロイトの口唇期も心の成長に深く関わっている。痴呆の方も、心を開いてくれなければ開口してくれない。口は、私たちが考える以上に心と深く関わっている。

私たちの関わりは、治療ではなくケアである。歯科衛生士の本質は、ここからスタートすることで初めて見えてくると私は考えている。