歯科衛生士徒然草 第二十四話

§第二十四段

訪問口腔ケアの現場で難しいと感じるのは痴呆の方のケアです。そう感じるのはどうも私だけではないようです。老人保健施設でも、よく寮母さんから相談されるのが痴呆の方の歯磨きです。

痴呆の方に接するとき大切なことは、こちらが相手にあわせていくこと。痴呆のお年寄りを現実の世界に対応させるのではなく、こちらがお年寄りの持っている世界に近づくことです。

一口に痴呆と言ってもさまざまなタイプがあります。まず素直なタイプの痴呆の方。誰に対しても素直な方は特に問題ありませんので、毎食後歯磨きにお誘いし、足りないところを助けてあげます。
いつも一緒にいる家族や寮母さんに対しては痴呆の症状が出やすいが他人には対面を保って素直になる方には訪問DHが白衣の天使となって口腔ケアさせていただく。

DHがダメでも歯科医師には素直になる方には、先生が白衣の権威となって歯磨きをする。
これはけっこう成功している。時間によって素直になる方には、その時間にこちらがあわせる。午前中が素直という方が多い。また、個別対応よりグループ活 動がお好みの方々は、集めて一緒に磨きます。対抗意識で頑張って磨く人や、できない人を手助けする人が登場するからおもしろい。
気をつけることは、隣合せる人間関係が悪ければ喧嘩がおきる可能性もあること。そのほか対応は百人百様、個性的で刻々と変化する。それでもだめな時は、口開けぬなら、「開くまで待とうジジ・ババ作戦」です。

意識がなく固く口を閉ざしている方の歯磨きも大変なのですが、DHがなかなかうまくやっているのに感心します。開口器などを使用せず、歯ブラシを口の中に滑り込ませて磨いています。
この技は他職種の方には真似できません。常に口腔を触り慣れているというだけでは無理。私はSRPに、その秘密があると思っています。深い歯周ポケットのなかに刃物を入れ、手の感覚だけを頼りに硬くこびり付いた歯石を除去する。時には1時間も集中します。この間にすばらしい感覚や感性が磨き養われているのでしょう。まさに職人芸、百冊の本を読んでも身に付けられぬDHだけの財産なのです。