歯科衛生士徒然草 第二十一話

§第二十一段

1999年に私は介護支援専門員の資格を取った。ケアマネージャーになろうという訳ではなく、介護保険が如何なるものなのか知りたかったのだ。

ケアマネージャーの実務研修受講試験を受けるには資格が要る。医療と福祉の24資格のうち、いずれか1つを持ち5年以上の実務経験がなければならない。 適切な介護支援をするためには広い視点を必要とするという理由からである。
ともあれ、いつも口腔内だけに意識を向けて仕事をしていた私は、介護保険にかか わったことでずいぶんと視野が広がった。今は、看護、介護、福祉、生活、人生、死を問いつつ仕事をしている自分を感じている。とは言っても、やっぱり根は DH、気がつくと口にフォーカスしているわけなのだが・・・。

生まれたばかりで多くの問題を抱えている介護保険制度だが、本人や家族はもちろん、多くの分野の方々と話し合いながら口腔ケアを考えることができるよう になった点はDHとしてとても喜ばしい。当然、他の分野の方々も同じように感じていることだろう、とのんきな私は思っていた。

ところが、「介護保険制度により社会福祉の枠組みは以前より狭められた」と感じている大学教授がいらっしゃる。それが、自分の乏しい読解力を棚に上げ、 「もっと解りやすく書けないのかね~」と筆者を恨みつつ読んだ『ソーシャルニューズ論(Ⅳ)エンパワメントとヒューマンパワー』(増田樹郎、静岡県立大学 短期大学部研究紀要、14(2)、2000)である。

福祉と医療の関係をどう捉えるかについて書かれているのだが、福祉側の先生は「援助関係を基本とする 福祉の枠組みは、治療関係を基本とする医療の枠組みより大きくなくてはならない」と考えている。しかし今回の介護保険制度は医療の枠組みをモデルに制度化 が図られた結果、近代の医療制度を成り立たせている権力関係を、援助関係として成り立つ福祉の中に持ち込むことになった、と批判している。

私の視野は介護保険によって広がったと感じていたが、この著書によってさらに広げられたようで、今まで如何に近視眼的に仕事をしてきたことかと反省している次第である。やはり私の哲学の貧困が原因なのでしょうかね。